微光のなかの宇宙―私の美術観 (中公文庫)

微光のなかの宇宙―私の美術観 (中公文庫) の詳細

二十年以上前に書かれた本であったが、司馬遼太郎の美術観を知るために読んでみた。空海やゴッホなどの心の奥底まで切り込んでゆ司馬遼太郎の人間観察への洞察力を、私など美術に疎い者に感想を述べることなど出来るはずもない。しかし本書を読み終わってから、司馬遼太郎がこの世を去ったことを知った時、”司馬さんは、人名事典が頭の中に入っていた人”と語っていた井上ひさしの言葉を思い出している。ずいぶん前に、司馬遼太郎が誰かと対談していた折に、「スイスには、たいした画家が出てこなかった」と語っていたことが私の頭から離れなくなってしまっていた。アルプスの風景画などで、今なお名を知られているジョヴァンニ・セガンティー二は、残念ながらイタリア人である。が、グスタフ・クリムトと並ぶ世紀末芸術の巨匠といわれたフェルディナント・ホドラーや、風景画家として知られているアレクサンドル・カラムなどは、れっきとしたスイス人なのである。本書を読み終わって、確かにスイスには有名な画家は少ないものの、司馬遼太郎ほどのひとが何故この二人の画家たちに言及しなかったのか不思議である。