神々のような人びと (1981年) (サンリオSF文庫)

神々のような人びと (1981年) (サンリオSF文庫) の詳細

「サンリオSF文庫総解説」（本の雑誌社。2014年）なんて本が出版されちゃうほど、SFマニアの間では神格化されているサンリオSF文庫。ここから出版された本書「神々のような人びと」も、ウェルズのSF小説の中ではかなり通向けと言える一編であり、サンリオでは、さらに本邦初訳になるはずだったウェルズ長編「彗星のとき（In the Days of the Comet）」の発行も企画していたようなのですが、こちらは陽の目を見ずに終わってしまいました。本作「神々のような人びと」は、ウェルズSFの中では、かなり知名度が低い方でありながらも、実は「平行宇宙（異次元）」というSF概念を本格的に扱っており、その点で注目に値します。（ウェルズが四次元を扱ったっぽい作品としては短編「魔法の店」がメジャーですが、はっきりと異次元だとは言及していません）ただし、ウェルズの小説としては後期の作品なので、平行宇宙というアイディア自体は小道具に過ぎず、むしろ平行宇宙に存在するユートピア国を描く事にウェイトが置かれているようです。このユートピア国と言うのが、作者ウェルズ自身は本気で理想社会だと思っていたのかもしれませんが、いろいろと考えさせられる部分も見当たるのでした。たとえば、ユートピア国では害のある雑菌を根絶していたため、地球人が訪れた途端、地球人が持ち込んだ病原菌が猛威を振るって、国全体がパニックになってしまうのですが、これって「宇宙戦争」の火星人の最期とまるで同じです。と言う事は、地球人にとっては恐ろしい侵略者だった火星人たちも、ユートピア国と同じような平和社会を自分たちの間でだけは築いていたという事なのかも知れません。そのへんの疑惑は「月世界最初の人間」の月人（シレナイト）にも被さってきます。一見、反ユートピアのようにも見える全体主義国家を樹立していた月人たちですが、他社会へ対する攻撃的意志は皆無であり、むしろ好戦的な地球人類の事を警戒して、「月世界最初の人間」であるケイヴァーの事を駆逐してしまいます。ウェルズは、最初期の作品でこそ、火星人や月人などを一種の怪物として描いていましたが、後期の作品になるほど、むしろ火星人や月人たちの生態が理想的社会であったかのような、平和世界思想に混合が見られてくるのでした。