一外交官の見た明治維新〈上〉 (岩波文庫)

一外交官の見た明治維新〈上〉 (岩波文庫) の詳細

日本語に堪能な通訳士として知られるが、日系人ではない。Satowさんである。ロンドン大学在学中に日本に憧れ、日本への通訳生を募集する公開試験に首位合格しイギリス外務省に入省。しかし本人は試験制度には苦言を呈している。学問にはモラル、誠実さ、そして紳士たる事が必要なのだと。二十歳前後だった彼の西洋的良心は日本の侍たちの心を捉えていく。幕府との交渉の傍ら薩英戦争、下関戦争にも従軍するが、敵であるにも拘わらずこれを機会に薩摩、長州に多くの知古を得る。その他諸藩と交流を持つが、大阪訪問では会津の侍に誘われ夜の街にこっそり繰り出す場面など、私的日記ならではの意外さも楽しい。本書は著者の二十代前半までの話だが、この激動の(攘夷活動の最も激しい)時代に縦横無尽に走り回る。その中で漢文、草書、文語体、丁寧語、現代では想像できないほどの方言、社会構成、歴史、etc、よくも努力して学んだものだと思う。国家機密に関わる内容が含まれる為か、本書が編まれるのは著者が78歳頃のことである。その後も日本では禁書であった。数多の登場人物の表記が丁寧なのは訳者の努力だろう。最晩年は家族のいる日本で暮らすことを望んだが果たせなかったというサトウであるが、日本に偉大な足跡を残されたことは間違いない。もし彼が凡庸な人物であったならば、日本の歴史は大きく変わっていたであろう。おそらくは悪い方に。本書により幕末の複雑な事情が極めて良く理解出来た。